機能性表示食品を作る
臨床試験の実施と法規制
食品の臨床試験を実施する際には、様々な法規制やガイドラインが関わってきます。法規制やガイドラインに則っていない臨床試験のデータは、論文投稿時点で受理されない、と言ったケースも多くなっています。ここでは、食品の臨床試験にはどのような法規やガイドラインが関連しているかについて解説します。
臨床試験に関連する法規・ガイドライン
現在、食品の臨床試験を実施したい、と考えたとしても、事業者が勝手に被験者に食品を摂取してもらい、データを入手する、といったことは出来ません。
被験者の安全の保持や倫理面を考慮するための法規制・ガイドラインを守って、臨床試験を実施する必要があります。
例えば、「機能性表示食品の届出等に関するガイドライン」を確認してみると、このようなことが書かれています。
臨床試験(ヒト試験)の実施方法については、原則として、「特定保健用食品の表示許可等について」の別添2「特定保健用食品申請に係る申請書作成上の留意事項」に示された特定保健用食品の試験方法に準拠すること(「機能性表示食品の届出等に関するガイドライン」より引用)
次に、この「特定保健用食品申請に係る申請書作成上の留意事項」という資料を確認してみると、
ヘルシンキ宣言の精神に則り、常に被験者の人権保護に配慮し、倫理審査委員会の承認を得て、医師の管理の下に実施する。実施に当たっては、倫理指針に従う。(「機能性表示食品の届出等に関するガイドライン」より引用)
と記載されています。
この時点で、すでに機能性表示食品のガイドラインから派生して3つの資料に準拠しなければいけない、ということが判明しました。
ヘルシンキ宣言と倫理指針の目的
さて、先ほど出てきた「ヘルシンキ宣言」とは、世界医師会により示された人間を対象とする医学研究の倫理的原則となります。
ヘルシンキ宣言では
医学研究の主目的は新しい知識を獲得することであるが、この目的の達成が個々の研究対象者の権利と利益よりも優先されることは決してあってはならない。(「ヘルシンキ 宣言」より引用)
といった、研究に参加する被験者保護や倫理的配慮に関する原則が定められています。
また、もう一つ出てきた倫理指針とは、「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」のことを指します。
この倫理指針の目的は、
人を対象とする医学系研究の実施に当たり、全ての関係者が遵守すべき事項について定めたものである。(「ヘルシンキ 宣言」より引用)
とされており、臨床試験で用いられる情報の取り扱いや試験計画書に記載すべき内容、倫理審査委員会が満たすべき要件など、ヒト臨床試験を実施するための規定が細かく定められています。
臨床試験の成功と法規制遵守の関係
ここまで見てきた通り、機能性表示食品のガイドラインを遵守して食品の臨床試験を実施する場合には、まず「特定保健用食品申請に係る申請書作成上の留意事項」を準拠しなければならず、さらには「ヘルシンキ宣言」と「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」に則る必要がある、といった形で、様々な規制・ガイドラインが関わってきます。
食品の臨床試験を実施するには、このように種々の関連・派生する法規制を全て遵守する必要がある、ということです。
ただし、法規制を遵守するだけでも一見大変そうに見えますが、実際のところ、法規制を守ることと臨床試験を成功させることとは、また違う次元の話と言っていいでしょう。
食品において臨床試験を成功させるために重要なことは、食品成分が持つ有効性を最大限に発揮できる計画設計と適切な試験運営体制です。
法規制やガイドラインをどれだけ遵守したとしても、食品が持つ有効性を発揮できないような試験設計としてしまっては、得られた貴重なデータも無駄になってしまい、最終的には、参加された被験者の方々にとっても不利益につながります。
貴重な時間を割いて参加される被験者の方々の倫理面を何より考慮するのであれば、法規制を遵守するのは当然のこととして、食品が持つ有効性をしっかりと確認できるような試験設計を構築し、計画通りに適切に試験を運営することが重要ではないか、そのように私たちは考えています。
このページを私が書きました
渡邊 憲和:2006 年に東京薬科大学薬学部を卒業後、CRO 企業で、医薬品・医療機器の開発、サプリメントの開発・企画販売を行う。次に製薬大手企業であるグラクソ・スミスクライン(株) で市販後調査の業務に従事。2013 年7月に(株) 薬事法マーケティング事務所を立ち上げ、代表取締役に就任した。
2015 年4月にスタートした機能性表示食品におけるアドバイザーとして、多数の大企業および中小・ベンチャー企業、地方自治体などへのコンサルティングを行っており、携わった機能性表示食品の届出製品数は300 を超えている。